チームの為に叱られ続けた10番がいた。
どこでも守れる器用さと、長打も打てる打撃で彼はチームを引っ張っていった。
しかし、10番という重圧で彼は次第に自身の調子を落としていった。
そして彼は下を向いた。
自分のことはどうでもいい、チームのことだけを考えろ。
コーチに言われたこの言葉を彼はどう受け止めたのだろうか。
仲間は彼のことをどう思っていたのだろうか。
最後の大会、最後の打者、エースは彼にマウンドを譲った。
「アイツに投げさせてあげて下さい」
キャプテンよ、これが答えだ。
お前はこのすばらしいチームの立派なキャプテンだった。
だから下を向くな。
次の目標に向かって前を向け。
5年の時からすでにチームの正捕手だった彼は、最終学年ではさらに
強肩の捕手としてチームの要になると思っていた。
冬場の練習中、コーチが言った。
アイツに背番号1をあげたい。
背番号をコーチに進言させた唯一の存在だった。
彼は背番号1がどんどん似合う選手に成長した。
そして絶対的な信頼を勝ち取るエースになった。
しかし彼は知っていた、しっかりリードするマスクをかぶった
キャプテンがいたことを、体を張って守る仲間がいたことを。
エースの自覚とともに、仲間を信頼できたからこそ
君は本当のエースになったんだ。
絶体絶命のピンチを彼の一振りが救った。
チーム1の強打者は何度もチームを救った。
練習が終わっても暗くなるまで父のボールを打ち続けた彼は
実は努力の人だった。
練習で積み重ねた長打率.661の彼は、最後の大会、決勝戦
私のサインに即答で胸を叩くと、スクイズを決めた。
最後の大会の優勝の為に、バントでランナーを生還させた彼は
全力で1塁まで走っていた。
だからこのチームは強いんだ。
彼が私に教えてくれた。
仲間の送球を体を精一杯伸ばして捕球する背番号3
お前は俺の自慢だ。
春の初大会、痛烈な打球が3塁線を抜けると、彼女は快足を飛ばし
ホームまで帰ってきた。
9月、大きな放物線を描いた打球がレフトのHRラインを超えると
彼女はゆっくりとダイヤモンドを1周した。
今年彼女が放った2本のホームランだ。
何万回も振った成果だった。
最後の大会、目の前で4番が敬遠された
私の打てのサインに小さくうなずいた彼女は
今年1番の美しい打球で、勝ち越し2塁打を放った。
決勝戦のウイニングボールが彼女のグラブに収まると、グラブを突き上げ
マウンドに駆け寄った。
紅一点、Aチームで奮起し続けた彼女は間違いなくチームの女神だった。
2019年秋 「お前はもっと強くなれ」
初めて本気で叱った。
彼はすぐに求められていること、そして自分が何をするべきか理解した。
それから、どんなに苦しくても決して弱音を吐かず、彼は最後までやりきった。
いつしか、勇気あるダイビングキャッチは彼の代名詞になった。
秋の決勝戦、終盤になんとかもぎ取ったスクイズの1点にチームが歓喜している中
彼だけは、空いた3塁に向かって全力で走っていた。
記録に残らないこのプレーで彼はMVPを掴んだ。
これがウチの野球だ。そんな顔でホームに帰ってきた小さな小さな背番号7!
お前は本当に強くなった。
ベンチで1番大きな声を出し続けた彼は、1番の泣き虫だった。
凡退して、エラーして、叱られて、泣いていた。
泣きながら、全力でセンターのポジションに向かう彼は
自分でも気付かないうちに外野の要へと成長していた。
守備範囲の広さと打球判断は見事だった。
夏の県営球場。
最終回、サヨナラのランナーが生還した瞬間、
チャンスでネクストにいた彼に打席は回ってこなかった。
しかし彼は、生還したランナーと抱き合っていた。
私が今年一番心を奪われたシーンだった。
やられたよ、見事だよ。
泣き虫だった彼に
泣かされた。
今年、努力で56本のヒットを打った4番がいる。
練習は嘘をつかない。こんな当たり前のように言われているが、
実は一番大変なことをやりぬき、私に教えてくれた4番がいる。
緊張してます。って顔に書いて打席に入り、何度も大きな仕事をした彼は
教えたことは全て自分のものにした。
少年野球を、何度も辞めようか迷った彼が、中学で硬式野球を続ける。
大丈夫。 お前に何度も言った言葉だ。
言えるのは最後になるが、自信を持って言える。
お前なら大丈夫だ。
頑張ってこい!